色鮮やかな見た目、シンプルかつ奥深いゲーム性で業界内でも注目を集めている『RoRop』。2022年秋にはクラウドファンディングを成功させ、本格的に事業をスタートしました。今回は、RoRopの開発者かつフレル代表の江口昌紀が開発エピソードやゲームに込めた思い、今後の構想などを語り尽くします!
RoRopとは
落ちてくる36個のキューブを取り合うボードゲーム。キューブの個数や色の数などを計算することで勝敗が決まる。シンプルなルールだが、勝つためには先を読むための思考力や、判断力、計算力などが必要。ボードゲームとしてはもちろん、”論理的思考”や”プログラミング思考”を育むのにも役立つ。プレイヤーが自らルールを設定することができるのも魅力の一つ。
「どれだけ考えたか」が勝敗を決するゲーム
—RoRopの制作に至った過程を教えてください。
もともとゲームが大好きで、ゲームクリエイターになりたかったんですよね。ゲームを作りたいという思いは常にあったけど、コンピューターゲームは大きな予算が必要だから自分では難しい。でも、ボードゲームなら比較的低コストで作れるし、ルールやギミックなどの設計さえきちんとやれば成立します。100円ショップやネットで材料を集め、2020年ごろにプロトタイプの制作を始めました。
—RoRopは8歳以上の子どもが対象のゲームですが、江口さんが子どもの頃のボードゲームの思い出は?
父親と将棋やオセロ、五目並べをよくやっていました。考えれば考えるほど強くなれて、ときどきは勝つことができて、それがとても嬉しかった。子どもって大人には敵わないと思っていたけど、「考える」ことなら勝てるんだと衝撃を受けました。逆に負けた時は、大泣きするほど悔しかった。いろんな感情をゲームを通じて獲得しましたね。
RoRopをつくることを考え始めてから、さまざまなボードゲームで遊びましたが、『コリドール』(※1)、『クワルト』(※2)のような「アブストラクトゲーム」(※3)に魅力を感じます。運に左右される要素がなくて、盤面の状況をすべて共有しているから、相手と自分の間に情報格差がない。だから、考えた方が勝つんですよね。だから楽しい。頑張ったら頑張った分返ってくるのが、ゲームの良いところだと思っています。
※1…コマの移動と壁の位置によって先にゴールに到達することを目指すゲーム。1997年にフランス・ギガミック社から販売。
※2…4×4の盤上に交互にコマを置き、共通の属性を持つコマを4つ一列に並べるゲーム。1991年にスイスの数学者ブレイズ・ミュラーが開発した。
※3…具体的な設定やストーリーが存在しないゲーム。「偶然が関与しない」「ゲームのすべての情報が公開されている」「ルールが明確で解釈の余地がない」といった要素を含む。
—RoRopはキューブを取り合うだけでなく、計算の要素が入っているのが特徴的。なぜこのような仕掛け(ルール)になっているのでしょうか。
考えることは学びに直結しています。考えることが楽しくなったら学びも楽しくなるはず。たとえば、算数で「りんご3個、みかん5個買いました。合わせていくら?」という問題があって、計算して答えが出ても「それが?」となってしまいますよね。だけど、ゲームに組み込むと「計算ができないと勝てない」わけです。勝敗に直結するし、自分ごととして考えられるからおもしろいんじゃないかと思いました。
僕がオセロや囲碁、将棋で遊び始めたのがちょうど小学生の頃だったので、初等教育の入り口にあるものと絡めたいなと。まず足し算を、それからワンランク上の要素として掛け算を取り入れました。
僕は教育者ではありませんが、エンタメから教育に寄り添っていきたい。学校などでインプットしたことを反芻してアウトプットできるゲームになったらいいなと思います。
—FEGのステートメント「Thinking is fun. “考える”ことは楽しい」にもつながりそうですね。
「考える」と言うと教育の色が強くて、敬遠してしまう子どももいると思うんです。でも、ゲームと結びつくと楽しくなるのではないかと考えました。「考える」行為が身につくと、一人ひとりがさまざまな物事や未来について考えるようになって、世の中はちょっとだけ良くなっていくはず。子どもたち本人の可能性も広がっていくはずです。その積み重ねで変わっていくものがあると信じています。
—なるほど。そのほかに、こだわった部分はありますか。
盤を斜めにしていることです。ゲーム自体は水平に置いても成立しますが、斜めにすることでキューブを一つとると、自動で落ちてきて盤の状況が変わる。『テトリス』や『ぷよぷよ』といった「落ちものゲーム」をアナログでやってみたかったんですよね。
子どもたちも戦略関係なく取っているだけで楽しそうだし、ラックを組み立ててブロックを並べる動作を何度も繰り返す子もいる。カラフルなものを取る、という行為に原始的な楽しさがあるのかもしれませんね。
—ゲームマーケット(※)への出展や体験会で印象に残っていることはありますか。
子どもから大人まで、見ず知らずの人たちが「おもしろそう」と言って立ち止まってくれたのには、手ごたえを感じました。
どのイベントも熱中して遊んでくれる人が多いですね。体験会に来た小学1〜2年生の子どもたちは2時間没頭していて「45分の授業すら集中できないのに、ゲームだとこんなに長い時間集中できるんだ」って、小学校教諭の友人が驚いていました。(笑)
負けたら大泣きして、その後勝つまでやり続ける子もいる。そういう子は、とにかく勝ちたいから必死に考えているんですよね。はたから見ていて「良い経験をしてるな」と思います。
それから、購入してくれた人が後日「こういう遊び方はどうですか?」とオリジナルルールを送ってくれたこともあります。たくさん遊んでくれたんだな、と嬉しかったですね。
※…アナログゲーム限定のイベント。商業・同人問わず出展が可能。東京で年に2回、関西で年に1回開催されている。
—オリジナルルールを考えて送ってくれるなんて、かなり熱心なファンですね。
この前もイベントで小さな子どもが同じ色が一列に並ぶようにブロックをひたすら並べ替えていて、聞いたら「スマホのゲームアプリの広告で見た」って言うんですね。「ハノイの塔」というパズルを模したゲームらしいのですが。本来の趣旨と合っているかはともかく、「自分で考えて遊ぶ」という行為がRoRopでできることがわかって良かったです。自分でルールを考える余白があるのがアブストラクトゲームの醍醐味であり、RoRopで目指していることのひとつなので。
人とのふれ合い、そして創造性を加速させたい
—2022年10月にはクラウドファンディングを実施。達成率423パーセント(総額1,270,600円)で終了するという好評ぶりでした。成功の要因はなんだと思いますか。
137人の方にサポートいただいて、知り合いは3分の1ぐらいでした。僕のことを知らない人もたくさんサポートしてくれたのは励みになりましたね。購買層を見ると、30〜40代の男女が多く、おそらくですがお子さんがいる方なのかなと。
パッケージの写真や遊び方のムービーなど、ビジュアル面で訴求できたのは大きな要因だと思います。ボードゲームって、ルールを説明して理解してもらうところがスタートなんですね。体験会では自分やスタッフが対面で説明できるのですが、Webではそれができない。そういうウィークポイントをうまく補って、ゲームのイメージや魅力を伝えることができました。
—今後の活動について教えてください。
とにかく人に見てもらったり、触ってもらったりする機会を増やして認知度を高めていきたいです。それから、ドイツの展示会に出展したい。やはりボードゲームの本場ですから。言語に囚われないゲームなので海外の人にもたくさん触ってほしいですね。FEGとして、第二弾、第三弾のゲームを作っていきますが、一貫して「人と人のコミュニケーションを考える」ものにしていきたいと考えています。イベント、ワークショップ、研修など使える場面はたくさんありますから。自分たちでルールを考えてみよう、というワークショップも脳のクリエイティブな部分が刺激されていいんじゃないでしょうか。
会社として掲げている「ふれあいからより良い未来を育む」を体現していきたいです。
プロフィール
江口 昌紀 (エグチ マサノリ)
1982年生まれ、福岡県出身、佐賀県在住。
2001年に高校を卒業後上京、ゲームコンテンツ開発を学びつつも、その後佐賀県に出戻り事務職を経て、2010年にwebを中心としたコンテンツ制作業を始める。
2019年に「ふれあいから、よりよい未来を育む」を事業理念に、人々の琴線に触れるものづくり、ことづくりの企画・開発を行う、フレル株式会社を設立。WEB制作をはじめ、マーケティング等の施策の企画等を行う。2020年よりゲームを通じて好奇心を育み、学びに向き合う力に変えていく活動を行う”Entertainment”と”Education”をかけ合わせた”Edutainment(エデュテインメント)”を事業名とするFulelu Edutainment Gamesを立ち上げ、世の中に「“考える”ことは楽しい。」ことであると啓蒙するべく、第一号製品である知育ボードゲーム「RoRop(ロロップ)」を開発。