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COLUMNコラム

「九州からボードゲームを盛り上げる!」ボードゲームカフェ経営者×ゲームデザイナー対談

2021年度の国内ボードゲーム市場は67億4000万円といわれ、まさに今“アツい”業界。九州最大規模のボードゲームカフェ「さいふる」を経営するケンビル・丸田公将氏とフレル・江口昌紀が、それぞれのこれまでの活動や九州からどのようにボードゲーム市場を盛り上げていくのかについて語り合いました。

ボードゲームの魅力は「余白のあるおもしろさ」

—丸田さんは2017年からボードゲームカフェ「さいふる」を経営されています。きっかけはなんだったのでしょうか。

丸田 元々、おもちゃの通販をやっている会社を経営していて、ボードゲームは取扱商材の一つでした。せっかく扱っているし、と思って遊び始めたら楽しかったんです。『ドミニオン』にハマったのをきっかけに2年で800本ぐらい買い集めました。収集癖があるから少しでもいい評判を聞くと「とりあえず買おう」ってなるんですよね。ボードゲームは再生産されづらいから、一度買い逃すともう手に入らないのもあるし。

江口 メーカーでここまで持っている人いないですよ(笑)

丸田 「さいふる」を始めたのはゲームを持ちすぎたのもあるけど、一番はボードゲームで遊ぶ文化を定着させたかったから。ボウリングやカラオケのように、お金や時間を使って遊ぶときの選択肢に入ってほしいんです。市場を発展させないと商品が売れませんから。

さいふるには、1400種類のボードゲームを揃えています。一人で来る常連の方もいるし、カップルやファミリーが長い時間遊んでいることもあります。ありがたいことに、土日はすぐに満席になりますね。

福岡・久留米市にあるボードゲームカフェ「さいふる」

江口 これだけゲームがあったら毎週通ってもなかなかやり尽くせないですよね。

—ずばりボードゲームのどこに魅力を感じますか。

丸田 ボードゲームは人とコミュニケーションを取るための手段だと思っています。初対面の相手でも、ゲームのやり方や会話で「こういう考えを持っているんだ」とわかる。「さいふる」では、初対面の人同士で対戦が行われることもあります。もちろんスタッフがマッチメイクやルール説明を行いますが、ゲームが始まってしばらく経つと本人同士でコミュニケーションが成立しているんですよね。素敵な道具だな、と思います。

ケンビル・丸田公将氏

江口 ボードゲームは、遊ぶ側がルールを変えたり、作ったりできる余白があります。

僕はコンピュータゲームも大好きなのですが、ユーザーが「遊びを考える」ことができないんですよね。

RoRopには、色のついてないブロックがあって、任意の色ブロックにも、お邪魔ブロックにもできる。どう使うかは遊ぶ人が決めていいんです。そうやって、しくみやルールを考えることにボードゲームは寄与できる可能性を持っていると思っています。自分たちでルールを考えてよりおもしろくできるのって、とても楽しいですし。

丸田 売れているボードゲームは、「おもしろさの抽出」ができるようになっているんですよね。おもしろさがある部分を見極めて、精度を上げていく。余白を使ってルールをたたき上げるのを制作側もやっているし、ユーザーも入り込んでいく余地がある。

—なるほど。国内ボードゲーム市場はこの数年で大きく拡大している印象があります。要因はなんだと思われますか。

丸田 一人でできる遊びや時間が増えたことへのカウンターだと思います。最近は、人と対面で遊ぶ経験がない子どももいるし、大人も自分一人のスキルで完結してしまう遊びをやることが多かったと思うんですよね。他人と向き合って同じ盤面を共有するボードゲームが新鮮に感じられるのではないでしょうか。コンピュータやアプリで遊ぶゲームとは違う体験ですから。

江口 人と会わないと成立しないですしね。コロナ禍でおうち時間が増えたのは大きな要因ですが、その前からゲームマーケットの来場者は3〜4万人ぐらいいました。ゲームマーケットは制作の敷居が低い分、楽しんでもらうのを目的にしていて、ビジネスとしてやる人が少ない。同人誌業界に近い印象です。

個人的に市場が伸びたのは、供給側のレベルが変わったのが大きいと感じています。ボードゲームってプレイヤーに比べて供給が少なくて、しかも子ども騙しのものが多かったんですよね。大手メーカーがきちんと作るようになって、市場が育って、ファンが増えてという好循環が生まれていると感じます。

丸田 ゲームマーケットは日本独自の場ですよね。日本のボードゲームはよく「コンパクト」と言われるけど、プロアマ問わず誰でもゲームを発表できるゲームマーケットがもたらしている影響は大きいと思う。

—ボードゲームも国によって違いがあるのですか?

丸田 ありますね。ドイツは本場だから家族の時間にボードゲームがあるのが当たり前。ヨーロッパの他の国も昔ながらのボードゲームが好きなんだなと感じます。アメリカは、フィギュアがたくさんあるゲームが好きですね。『クトゥルフウォーズ』や『ダークソウル』を見てもらうとわかるんですけど、箱からしてとにかく大きい。

日本でボードゲームというと、大半がカードゲームで小箱に入っているのが多いですね。クオリティが高いゲームもちゃんとあって、2022年のドイツゲーム大賞にノミネートされたものもあります。

ドイツ年間ゲーム大賞受賞の「カスカディア」や丸田さんがボードゲームにハマったきっかけ「ドミニオン」など。すべて「さいふる」で遊ぶことができる。

江口 2022年のドイツ年間ゲーム大賞を受賞した『カスカディア』(※)の日本語版はケンビルが販売していますね。

丸田 そうなんですよ。『カスカディア』に受賞してほしいけど、日本勢がんばってくれ!という気持ちもあって。結果が出るまで複雑でした(笑)

海外のボードゲームの日本語版を販売するのも、以前はコピー用紙に日本語で書いたルールだけ印刷して箱に貼っていただけというのが多かったんです。今は日本語版のパッケージを出せるようになったゲームも増えてきた。そういうところからも市場の盛り上がりを感じます。

※…大自然の地形が描かれた6角形のタイルで箱庭を作り、その上に野生動物のトークンを置いて豊かな生態系の構築を目指すゲーム。2021年、フラットアウト・ゲームズが制作。

おもしろいゲームがあれば人もお金もちゃんと集まる

—RoRopのように、大手メーカーではないけれどクラウドファンディングなどで資金調達に成功しているパターンは他にもあるのですか?

江口 日本だと「うちばこや」という木駒を使ったボードゲームの製作会社が、2022年の秋にクラウドファンディングをやって5000万円近く集めていましたね。3000人ぐらいが支援していました。

丸田 やはり、メーカーやゲームに対する前評判がしっかりあるとお金が集まりやすい印象があります。

先日、『Slay the Spire』というテレビゲームのボードゲーム版販売に関するクラウドファンディングが海外で行われたのですが、約394万ドル(約5億5000万円)集まったんですね。テレビゲーム版がおもしろいかどうかで、集まる額はかなり変わったのではないかと思います。2023年に、ケンビルが日本語版のクラウドファンディング(※)を行いますがどうなるのか…ドキドキしています。

※…クラウドファンディングは、2023年1月30日に終了しました。

—丸田さんから見てRoRopの印象はいかがですか?

丸田 まず見た目が鮮やかだから目を惹きますよね。子どもにもわかりやすいルールだけど奥深い。掛け算の要素があるのがポイントで、数だけ集めても勝てないようになっている。やっているうちに相手の思惑が見えてくるのがいかにもボードゲームだな、と思います。

江口 パッケージはやはり「おしゃれ」と言ってもらえることが多いですね。ゲームマーケットや体験会でも、試遊した人の購入率は高いので、ちゃんと楽しんでもらえるんだなと実感しています。

大人数でわいわいやって一喜一憂!大興奮!みたいなゲームではないですが、『コリドール』のようなクラシックなおもしろさがあるのではないかと感じます。

丸田 今後こうしていきたい、というのはあるんですか?

江口 RoRopの大きいバージョンを作りたいです。それで子どもたちに遊んでもらったらどうなるんだろう、サイズが変われば他のことも変わるのかな、とか気になっています。

丸田 単純におもしろそうですよね。見てみたいな。

—それぞれの今後の活動について教えてください。

丸田 これまで動画配信で次に発売するゲームを発表したり、新作ゲーム会を開催したりと自分なりにボードゲーム界隈を盛り上げる活動を行なってきました。今後はうちだけじゃなくて、九州全体で盛り上がっていきたい。静岡県で開催された「ボードゲーム大祭」(※)の九州版を計画中です。九州はもちろん、関東からもメーカーを呼んで作り手同士の懇親の場にもしたいですね。

※…2022年の9月に静岡県で開催された「第1回ボードゲーム大祭2022 in TOKINOSUMIKA」

江口 それはぜひ実現してください!作り手側としても遊ぶ側としてもとても楽しみです。先日、東京おもちゃ美術館の館長と話す機会があったのですが「人が生まれて初めて出会うアートはおもちゃ」と言われたんですよね。自分の勝手なこだわりで「RoRopはおもちゃじゃなくてゲーム」と思っていたし、周りにも言っていたけど、そういう段階ではないな、と。子どもにどう遊んでもらってどう学びにつなげていくか。子どもに遊んでもらうための仕掛けをいよいよ本腰入れてやらないといけないなと思っています。

丸田 ボードゲームはそんなに大きい市場ではなく、やはり関東や関西が需要も供給も多いのですが、メーカーのレベルやゲームのクオリティは九州も同じぐらい高いんです。とにかく場を増やして、人口を増やして、盛り上げていくことを着実にやっていきたいです。

プロフィール

丸田 公将(マルタ トモユキ)

1979年生まれ、福岡県出身、在住。

2008年にTVゲームの通販事業として、株式会社ケンビルを設立。事業理念は「ワクワクを世界に届ける」。

2010年から取り扱い商材をホビー、玩具へと移行する。

2015年にボードゲームの取り扱いを開始、オリジナルボードゲーム第一弾、「ゾン噛ま」をリリース。

2019年に海外ボードゲームのローカライズを開始。ユーザー目線の商品選定と丁寧な翻訳を心がけながら事業に取り組む。2022年現在、50種類以上のタイトルをリリース済み。

江口 昌紀 (エグチ マサノリ)

1982年生まれ、福岡県出身、佐賀県在住。
2001年に高校を卒業後上京、ゲームコンテンツ開発を学びつつも、その後佐賀県に出戻り事務職を経て、2010年にwebを中心としたコンテンツ制作業を始める。

2019年に「ふれあいから、よりよい未来を育む」を事業理念に、人々の琴線に触れるものづくり、ことづくりの企画・開発を行う、フレル株式会社を設立。WEB制作をはじめ、マーケティング等の施策の企画等を行う。2020年よりゲームを通じて好奇心を育み、学びに向き合う力に変えていく活動を行う”Entertainment”と”Education”をかけ合わせた”Edutainment(エデュテインメント)”を事業名とするFulelu Edutainment Gamesを立ち上げ、世の中に「“考える”ことは楽しい。」ことであると啓蒙するべく、第一号製品である知育ボードゲーム「RoRop(ロロップ)」を開発。

リンク

株式会社ケンビル http://info.kenbill.com

ボードゲームショップ&プレイスペースさいふる http://xi-full.space